身体を傷つけるとは？ ー人間が人間であることを許される、ぎりぎりの行動
まず、身体についての話をこれからしたいと思いますが、自傷行為における身体の問題の手がかりとなりうる話をしたいと思います。
自傷行為とは何か？
そう題した章の中でウォルシュとローゼンはこう述べています。
自傷行為は、人間が人間であることを許される、ぎりぎりの行動である。（中略）極端な言い方になるかもしれないが、文献上の人物で
あれ、実在の人物であれ、自傷者との出会いには人を惹きつけて止まない、何とも魅力的な要素があるものである。しかし、そのような
気分はただちに別の感情によりかき消されてしまう。その感情とは、苦悩、思わず後ずさりたくなるような畏れ、あるいは、精神的な衝
撃や不快感、さらには（臨床現場でそのような人を援助しようとしている人の場合は）理解してあげたいという気持ちである。
（Walsh & Rosen 1988＝2005：13）
上記のウォルシュとローゼンによれば、自傷行為とは、その行為を行っていない者からしてみれば、苦悩や畏れなどを想起させ、精神的な衝撃を与え、不快感を与えるものであると考えられています。その一方で、自傷行為は、畏れや不安を抱きつつも自らを傷つける人たちを理解してあげたいという気持ちを生み出すものです。
自傷行為者たちが書き込む掲示板を見ると、「自分の体を傷つけることがなぜダメなのか分からない」という旨の記述は多く見受けられます。確かに、この問いは強烈なものです。
「自傷行為をしてはいけない」、「リストカットはしてはいけない」と考えている人でも、「自分の身体をなぜ傷つけてはいけないのか」、「なぜダメなのか」スラスラと説明できないのではないでしょうか？あるいは、その理由を説明できたとしても、それはどのくらい人の心（自分の心も含めて）に届きそうなものでしょうか？
命は大事だから傷つけてはいけない。親から貰った体だから傷つけてはいけない、大事にしなくてはいけないといった言葉は理解できます。しかし、少し私には歯切れが悪いように思えるのです。親から貰った体。今を生きている大切な命。そのことはとても分かりますし、理解できます。それでも、それらの言葉は私には自傷行為者の方々に届かないように思えます。なぜ届かないのか？その問いかけに答えるのは容易ではありませんが、身体における自傷とは何なのか。これからそれを話していくことで、見出していけたらと思います。
（2011年８月６日作成）
参考文献
・Walsh, B. W. & Rosen, P. M. 1988Self-mutilation: theory, research, and treatment.
＝2005 （松本俊彦・山口亜希子訳）『自傷行為――実証的研究と治療指針』、金剛出版